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 私が足繁く通っている研究室に、若い助教の先生がいる。アメリカでの留学経験があり、自主ゼミの合間に、海の向こうの研究事情などを語ってくれる。先日は『「PhD(博士号)」とは「Defense of Philosophy」である』ということを教わった。
 もちろんPhDは、実際にはDoctor of Philosophyの省略形なのだが、Dを「defense=防御」と解するジョークには、博士すなわち専門家になれば、自分の学説ないし理論を命がけで守らねばならない、という意味合いがにじみ出ている。「一旦議論になれば、決して引いてはならない。相手に説得された時点で、PhDの称号は剥奪されたに等しい。」彼の口調にはいつになく力がこもっていた。
 この研究室の研究テーマは「生体情報処理」。生物がどのように外界の様子を認識し、行動しているかについて、情報処理という観点から迫る。研究室長たる教授は細胞に着目し、細胞そのものに心の働きを認めようとする(細胞主義)。しかしこの説には異論が多く、同じ研究科内でも完全に四面楚歌である。
 細胞主義に対立する立場として、脳全体のネットワークに心的活動の根拠を定めようとする説があり、私はその説を掲げる先生が主催する演習にも参加している。その授業では、例えば「神経を情報が伝わる」という表現を何の抵抗もなく使う。しかし細胞主義では情報は伝わるものではない。はじめから細胞の中にある。その立場の違いを知っていたから、私はネットワーク主義の先生に「そこでおっしゃっている情報とはどういう意味ですか。」と聞いた。すると彼は「例えば腕を少し動かそうと思ってもたくさんの情報が動くでしょう」言っただけで、明確な回答をよこさなかった。「はあ…」と僕は言ったものの、全く納得できなかった。ただ、喧嘩をしに来たのではないと思いなおし、それ以上追及することはしなかった。
 その話を細胞主義のゼミに帰って話すと、助教の先生が最初に書いた話をしてくれたのだった。「君を納得させられなかった時点でその理論は破綻しているということでしょう。でも君も『はぁ…』とか言って引き下がっちゃいけない。」研究者とは研究をして飯を食っている人たちである。自分の論理が否定されれば文字通り飢え死にしてしまう。何が正しいか、何が理にかなっているかという問題以前に、いかにして自分を守るかという生々しい問題が立ちふさがっていることを、私は現場の風として感じ取ったのだった。

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