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ポツンポツン
玄関口の大きな扉には荘厳な装飾が施され、そこをくぐり抜けると眩いばかりの白で満たされた空間が広がっている。いわゆるブランド店がどっしりと、そして少し自慢げに私の周りを取り囲んだ。白のフロアには高貴な女性の香りが立ち込めている。
百貨店のファーストフロアの印象である。受付嬢から商品の陳列に至るまで見事なまでに隙が無い。私は、いつも何気なくそこを通っている。何気ないふりをして通っているのだ。田舎くさくて、アヒルのように歩く私である。言ってみれば百貨店の気位の高さと私は月とすっぽんの関係である。その張りつめたような、透き通ったような空気に、隙だらけの自分を見透かされている気がして、どうも落ち着かないのだ。来店客もみな洗練されているし、店員に至っては輝いてさえ見える。私は異空間の中にポツリと取り残された気分だ。特に各売り場の鏡がチラチラとこちらを見てくるので、もう気が気でない。
しかし、私はその雰囲気がどうも嫌いにはなれないのだ。私の足はふらふらとそこを歩き回って、なかなかその異空間から出たがらないのだ。ポツリと取り残された感覚は、そのままの「私」が存在していることを教えてくれる。それは、畳の匂いで充満した大きなお寺の本堂の中の私に似ているし、ベルサイユ宮殿鏡の間の中の私も似ている(後者は想像の中)。「私」のアイデンティティーをしっかりと確かめられるのは、こうやって一人取り残された時なのかもしれない。
だなんて。つくづく自分の思考の楽天的な性質には、笑わされる。甘んじていてはだめだろう。そんなみすぼらしい「私」から、脱却することから始めなくては。
そうして私は履歴書を握り締めて、異空間に立ち向かったのであった。(笑)