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先々週の今日、私はレスキュー隊によって谷底から救出され、消防のヘリコプターで病院に搬送された。
7月6日、私はひとりで京都北部の廃村八丁にでかけ、途中で崖の下に転落して身動きが取れなくなった。初心者レベルの登山道だったが、一瞬の油断と焦りが事故につながった。落ちた場所は滝が幾重にも連なる複雑な地形で、二方向は滝、二方向は断崖絶壁、四方どこを見ても脱出できそうになかった。時刻は正午前、幸い特に大きな怪我もしていなかったが、なすすべもなく約24時間、警察の捜索隊に発見されるまで谷底にとどまることになった。
滝から滝壺へ、また滝へと水が轟々音を立てて流れる中、時間は遅々として進まなかった。たまたま持っていたトランプを切り混ぜたり揃えたり、行き帰りのバスで読もうと鞄に入れてきた新書のページを繰ったりしてみた。かえって虚しい気分になった。携帯電話は圏外だった。手持ちのおにぎり3個とチョコレート10粒で何日生きられるか考えた。死ぬということは不思議と考えなかった。
日が当らずじめじめして、濡れた足がこごえた。1時間がたったころには、何かをもてあそんで時間をつぶす気力はもはやなくなっていた。でこぼこの岩場にピクニックシートを敷き、両足を抱えてひたすらうずくまっていた。こわくはなかったが、とても不安だった。
夜は文字通り真っ暗だった。目をつむると余計な幻想の走馬灯が回る。目を開けた方が暗かった。できるだけ体を動かしてはいたが、少しずつ体温の低下しているのが感じられた。眠ると危険だと思った。
おそらく午前2時ごろ、漆黒の中をただよっていた私の目に黄色い光が映った。助けが来た、と一瞬思ったほどまぶしい光だった。私は一心にその灯を目で追った。蛍だった。激しい水音の中、蛍がただ一匹静かに飛んでいた。私はそのとき何も感じなかったと思う。安らぎを得ることも、余計に不安になることも、感動することもなかった。ただ少し面白かった。遭難して蛍を見るとは――。黄色い光は私のいる場所でしばらく迷うように飛んだあと、滝壺の向こうへと消えていった。
翌日の午後、私は無事救出された。お世話になった多くの人に感謝と陳謝を申し上げたい。怪我は快方に向かっており、後遺症もなさそうだ。事故のこともそれなりに冷静に思い出すことができる。そのなかで、しかしあの蛍の光は、夢というか幻というか、ある種の非現実感を伴って、私の記憶の中で繰り返し再生されるのである。